モーニング娘。2008春ツアー 「シングル大全集」福岡公演 夜の部 

光井愛佳の価値がわからないという人は、おそらく、「百万円の札束と橋本雅邦龍虎図屏風、どっちがほしい?」ときかれて、迷わず「百万円!」と答えてしまうような、かわいそうな人だと思います。(笑)


ということで、遅くなりましたが、モーニング娘。2008春ツアー「シングル大全集」福岡公演の夜の部を拝観してまいりました。
先述しました光井さんが、盲腸炎のために欠席をするという一大事がありまして、非常に残念ではありましたが、結果的には、それをフォローするに余りあるコンサートだったのではないかと思います。(セットリストなどはこちらを参照のこと)

今回のコンサートでは、タイトル通り、これまでのシングル36曲すべてを歌いきるという荒行。ステージのスケジュールもタイトな上に、あまつさえ衣装チェンジが普段の倍近くもあるという、歌舞伎で言うなら『新版・お染の七役』のような瞬間的な早変りも多く、目の肥えた観客をどこまで楽しませるかを追求したようなステージになっていました。*1
モーニング娘。絶頂期ともいうべきころの、大きなコンサート会場に花道を何本も敷くような大胆なステージングができない状況にある昨今、こういう細かい芸当での演出は、われわれ大向こうの心根を気持ちよくくすぐってくれました。
今回のステージでわたくしが一番気にしていたのは「現在のモーニング娘。が、過去のモーニング娘。のクオリティにどれだけ肉迫できるか?」この一点に尽きるといっても過言ではありません。
現在は中国人メンバーが二人も加わり、モーニング娘。絶頂期を彩ったメンバーのほとんどが卒業してしまい、「もはやあれをモーニング娘。とは呼べない」と、ファンの多くが宗旨を変え、はたまたアイドルファンをやめていくなか、現在のモーニング娘。が、どれほどまでの実力を有しているのか? その点を見極めるのが、今回のコンサートを観に行く上での最大の目的でした。

まず目を見張ったのは、リーダー・高橋愛さんの威風堂々たるパフォーマンスです。『Mr.Moonlight 〜愛のビッグバンド〜』での、男役になりきっての低音の良く響く歌いっぷり。いや、それだけでなく、ほとんどの楽曲のメインパートは彼女の担当になっているので、スタミナ的にも大変だと思うのですが、それを全く感じさせない歌唱力としなやかなダンスパフォーマンス。サブリーダー・新垣さんと二人でのMCになると、借りてきた猫のようにおとなしくなり、また相変わらず脳内でのろれつが回らなくなってしまう(笑)のですが、あんなに完璧なステージが観られるならば、それもまたご愛嬌かと思えてしまう個性の強さには脱帽しました。
その高橋さんの足りない部分を補って余りある「同期の桜」新垣さんですが、こちらも派手でないにせよ、基本に忠実なダンスと歌唱力で、独特の渋さを感じさせるものがありました。実力的には表を張ってもしかるべき位置なのでしょうが、源義経における弁慶とか、徳川家康における榊原康政とでもいうべき、あえて半歩引いた活躍をしている(またはさせられている?)ような気がしました。団体において、こういう人物は不可欠です。(笑)
今回のコンサートで、光井さんのフォローをこなしていた田中れいなさんですが、こちらも高橋さんに負けず劣らずのステージングで、目を見張るものがありました。彼女には独特のケレン味のようなものを感じます。彼女の加入当初、確かに新人ならぬ声のカマシと、ダンスの切れは多くのファンをうならせましたが、そのなかには彼女一流の「はったり」のようなものもあったはずです。うまくない部分を勢いでごまかすような個所がちょくちょく見られました。現在ではそれがほとんど消化され、自分で上手になった部分を意識してさらに良く見せようとする苦心しているような気がしました。見る人が見れば、それはかなり鼻につくのかもしれませんが、彼女なりに高橋さんや、他の先輩方を越えようとする努力なのだと推察いたしました。
ダンスだけを取り上げるなら、亀井さんのダンスには、上品さというとおこがましいかもしれませんが、より洗練されたものになってきたような気がします。いや、けっしておとなしいとか、目立ってなかったというわけではありません。あきらかに「所与の振付を踊らされている」から「自らのセンスで踊っている」へと、大きなステップアップをしたように感じました。一つ一つの細かい動きをないがしろにせず、自分の中で糸を紡ぎ出すように丁寧にこなしてゆく。むろん、それで手いっぱいということはなく、メンバー同士また観客に対してもパフォーマンスを心から楽しんでいるように受け取れてよかったと思います。ただ、歌唱力に関してはまだまだ表看板を張るような実力でもなく、成長が期待されるところですが、その期待値は十分にあると言ってもいいと思われます。
その亀井さんと同じ六期メンバーの道重さんには、人の目を惹きつけてやまない何とも言えない色気を感じました。「運動とダンスが苦手」というのは本人が口癖のように言っていることですが、たしかにダンスはまだまだ粗さがあり、歌唱力もファン以外の方の耳の中に入ることを想像すると、思わずゾッとしたくなるほどのものがあります(それでもうまくなったほうじゃないでしょうか?)が、何もせずにステージ上で佇んでいるだけでも、なぜが彼女に目が行ってしまう。そんな魅力があります。六期三人でMCトークしている時の彼女の輝きっぷりは筆に書くとも及ばずといった雰囲気。また今回のコンサートでは、初期モーニング娘。ファンの中では最高アンセムである『ふるさと』を彼女が独唱するのですが、たしかに稚拙と断ずるには易くとも、彼女なりに歌詞の内容をよく咀嚼したうえで、観客一人一人に語りかけるような歌うその声は、多くのファンの心底を鷲掴みにしたのではないでしょうか。

(以下、続きます)

*1:ちなみに、道重さんの髪型。ストレートに下していたのが、右を見て左を見ているような間に、三つ編みの二つ縛りに変わっていた。なんでも、三つ編みを編む速度に自信があるらしく、自身の談話はモーニング娘。の公式携帯電話サイト「ポケットモーニング」のツアー日記での記事にもある。