新作能『リリウム』(仮題) 準備稿 [新作能『リリウム(仮題)』][モーニング娘。]


●配役●

シテ……リコリス(シルベチカの執心の思念体) ツレ……シルベチカの亡霊 ワキ……旅の修道士


●分類・季節●

四番目。執心物。太鼓入り。一場。場所・元療養所(クラン)の庭。季節・不明。



●装束附●

シテ……面・泥眼。 着付・鱗箔。色大口(緋色でない)。長絹・白に限る(ツユ) 腰帯。鬘(スベラカシ)

ツレ……面・小面。着付・摺箔。襟・赤。色大口(緋色) 長絹 白に限る(ツユ。シテと同じ)。腰帯。鬘。鬘帯(またはシテと同じくスベラカシ)

ワキ……大口僧の形。ロザリオを掛け、唐傘を持つ。



●概略●

(1)旅の修道士が雨の降り続く森のなかで道に迷っていると、急に広場のように開けていて、噴水があり、花園も設えてあるような場所に入り込む。花園には、百合・椿・紫蘭・竜胆・薔薇・桜など、四季折々の花々が今を盛りと咲き乱れている。不思議に思った修道士は花園に近い大樹の木陰で雨宿りをすることにする。

(2)修道士が花を眺めながら雨宿りをしていると、花園の奥から白いドレスを身にまとった少女が現れ、花園の前でうずくまり、さめざめと泣く。

(3)修道士に声を掛けられた少女は驚くが、修道士と知ると駆け寄って「罪を助けて給え」と泣き伏す。

(4)少女は「自分はシルベチカと言って、今は庭だけになってしまったここ、繭期のヴァンプ(吸血鬼)のための療養所(クラン)の住人の亡霊だが、このクランを造り、ヴァンプのなかから適切であると思われる少女を選び、自分と同じトランプ(永遠の命を持つ吸血鬼)にせんと数々の繭期の少女の血を弄ぶ"ファルス"と名乗る少年から逃れようと、学舎の尖塔に逃れたが叶わず、やむなく塔から身を投げて自殺した。心残りは恋人であるキャメリアに何も告げられなかったことで、それが執心で天国に導かれずにいる。何とぞ助けて給え」と語る。

(5)シルベチカがさめざめと告解(こくかい。罪を懺悔して神の助けを乞う行為)していると、森の木々の奥からシルベチカを呼ぶ声がする。シルベチカが焦燥の色を隠せないのを修道士が怪訝に思っていると、いつの間にかシルベチカに後ろに、影とも幻ともなく髪の毛を振り乱した恐ろしげな表情の少女が寄り添っている。

(6)修道士は何事かとシルベチカに問うと、シルベチカの後ろの少女が「自分はリコリス。ただキャメリアと添い遂げることだけが生き甲斐だったのに、この女が身投げしてしまったばかりにそれが叶わず、今はただその責めをこの女の亡魂に科し、二人でこの無明の闇に遊んでいるのだ」と言い、修道士に迅く立ち去れと訴える。

(7)修道士は、ファルスの脅威から逃れてただキャメリアと添い遂げたいシルベチカの気持ちの思念体がリコリスであると看破。二人同時に告解しなければ救われないと二人にクランでの生活を物語るように奨める。

(8)いつもと変わらず、何も変化のない学舎と寮の往復。シルベチカが異変に気付いたことを語ると、リコリスは激昂してシルベチカを責め立て、花園の中に放り込むと、自分もまたその中に飛び込んだ。あとはただシルベチカのすすり泣く声と、絶対に止むことのない雨の音が聞こえるばかりだった。



●便覧●

(1)囃子、地謡。座に付くと「一声」で脇、唐傘を開き持ち登場。常座で次第を謡う。名乗り、道行のあと正先を向き、花園を見つける下り。「あの木の下(もと)へ」と脇座に座る。傘は地謡が引く。

(2)一声コス。ツレ出。一の松で謡い、正中まで進み出て座り、泣く型。

(3)ワキ、ツレと問答。ツレ、ワキの方へ進み出て合掌。しさって大小前で泣く型。

(4)ツレの語り。

(5)シテ、呼び掛け出。一の松にて謡いの後、初同。「隠れ鬼とは面白し」と柱巻きの型などあって大小前へ。

(6)シテ、名乗り、語りとあって、ワキと問答。

(7)二人立って大小前の左右に立ち、サシを謡い、クセ、序ノ舞と相舞。

(8)上げ和歌。脇に駆け寄るツレを後ろから袖にすがり、引き離して橋掛りへ追い立てるシテ。ツレはそのまま走るように幕屋へ。シテは舞台一巡の後、一の松で袖を被って留め。(天狗モノの如く)


●解説●

物語は、『リリウム』の結末から数百年後の未来。

ファルスが去り、リリー以外のすべての「繭期のヴァンプ」が死んで、そのリリーもどこへともなく去った*1あと、館も雨に朽ちて跡形もなくなり、ただ永遠の花が咲く花園のだけが残ったクランの跡地。

としました。

実際の能だと、平家物語における合戦の跡地だったり、源氏物語に登場する明石や宇治などの旧跡という位置付け。

そこを旅の僧侶が訪れる、というのを修道士に変えたと。




※画像は能『八島』(観世流で『屋島』)のイメージ。向かって右の旅の僧侶たちが八島の合戦の跡地を訪れると、そこに漁夫が現れる、というくだり。


新作能だと、これまでの能の構造をけっこう変えて変則的な演出がなされることが多かったのですが、今回の『リリウム』はできる限り、古典的な能のフォーマットを生かした演出にしようと思っています。

あと、ネックになっているのは、この感じだとシルベチカが本当にツレ(脇役)でいいのか? というのはあります。

でも、能にするになら、執心が凝り固まって一つの人格をなし、それがリコリスと名乗って生霊のようにシルベチカに取り憑いている姿を想像すると、やっぱりリコリスのほうがシテ(主人公)になるんじゃないかと。

とりあえずこれで進めてみます。

また、二年後。(こらこら)

*1:と舞台の結末では思われるので、そうしますが