味わう眼

熊本のグランメッセで「日本全国 食の祭典」とか言うのが開催されて、そこで彼のつんく♂プロデュースのお好み焼きとやらが限定販売するそうなので、物のついでに行ってみたら、すっかり売り切れでした。(笑)
肩透かしを食らってがっかりしたのですが、腹の方向がお好み焼きだったので、全国各地から集まったご当地グルメにはあまり興味がなく、困っていたところ、広島風お好み焼きの屋台を発見。作っているところをさりげなく吟味していると、どうも唯の屋台の作り方ではないらしい……。とりあえず買って食べてみると、これが美味い!
わたくし、どうも恥ずかしながら広島風お好み焼きの真っ当なものを食べたことがなかったんですよ。^_^;
広島焼というと、焼きそばがお好み焼きに乗っかったモダン焼きの親戚ぐらいに思っていて、実際に広島焼を謳う屋台でそういうものを食べた経験があり、どうも苦手だったのです。なんかこう、おたふくソースの濃厚な感じがいたるところでしているような、お好み食っているのかソース食っているのかがわかんなくなる感じ。そういうイメージでした。
ところが、Perfumeあ〜ちゃんが、ラジオで広島焼の作り方についての詳細な解説をしているのを聴いて、「これは違う!」と思いなおし、「いつぞや本当の広島焼を食らふべし」と神明に誓ったのであります。
そしてついに出会う事が出来ました。これぞ紛れもなき真実の広島焼でした。ソースは生地の表面にふた刷毛ほど塗っているだけ。ソースの焦げた感じが、どこまでも追いかけてくる関西焼きとは全く違うものです。*1中は蒸し焼きになった大量のキャベツと、味付けのされていない焼きそば麺。底には塩コショウのみで味付けされた豚バラ肉があり、ソース以外はあっさりした感じ。そこの店だけの工夫でしょうか、仕上げに白ゴマをパラリと振りかけてあり、そのゴマの風味で、ソース独特のツンツンした酸味やえぐみが抑えられています。ソースの染みた生地と一緒にキャベツと麺をがっつくと、ほんのり甘いソースとゴマの香りが蒸されたキャベツの熱気と絡んで喉元から鼻腔に駆け上り、口の中ではしんなりしたキャベツの甘みと麺の小麦粉本来の甘み、それからソースの甘辛さとが渾然一体となって、ありとあらゆる味覚を刺激してきます。
「これは……」
わたくしはあらためてこのお好み焼きが真実の広島風お好み焼きかどうかを見極めるべく鉄板の前に立ちました。ここのお好み焼きは、一枚を作るのに、決して上から押さえつけることなく、自然にキャベツがしんなりするのを待ってから仕上げにかかる作業を欠かしません。これこそ真っ当な広島焼の証拠。抑えつけて焼くと、キャベツから余分な水分が出て、生地にせよ麺にせよ、何もかにもがべしゃべしゃになってしまうんです。以前、わたくしが食べた広島風「的」お好み焼きは、まさしくそれでした。
なににせよ、これがわたくしの広島風お好み焼きの判断基準となるでしょう。貴重な経験をしました。青島です。(長いな。今日は)


このように、わたくしは観るモノ、聴くモノ、食べるモノ、などなどいろんなモノに、ずばり「点数」をつけてしまう癖があるのですが、これってなにも嫌みでつけているんじゃありません。
食にせよ、芸能にせよ、さまざまな娯楽はただ「楽しければいい」とか「うまければいい」だけで判断していいものではないような気がするのです。
そういう意味では、すべての文化芸術は伝統の有無やら歴史的価値やら高尚・下賤の差別なく対等だと考えるのです。特殊な文化相対主義者と言ってもいいと思います。
美味しんぼ』で海原雄山が、トラフグの白子の価値をモーツァルトの曲や、中国の陶磁器と比較して同等だと喝破する場面がありましたが、それに似ています。
自分は確かに食楽舞台芸術に煩悩が強く、子供のころからありとあらゆるものを食べ、触れ、見て、聴いて、におい尽くしてきました。
黄金色に輝く一杯のチャーハンが、あの舞台に勝る感動を呼んだのかどうか、または、あの名演は過去に観た彼の舞台の中でどれくらいの感動を起こしたのか、しっかりと記憶に留めておこうと、なんにでも点数をつける癖がついたのです。


では、どうやって点数をつけているのか。高橋愛さんの最新写真集『私』を例にしてご説明してまいりましょう。


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この写真集の点数は「73点」でした。


※及第は60点。それ以下はお話しにならないと思っていただいて。

※60点〜 …… 高橋さんのファン、モーニング娘。のファンの方ならご覧になったほうがいいと思います。

※70点〜 …… ハロプロのファン、アイドル好きする男性ならどうぞ。
※80点〜 …… 男女問わず、アイドルの写真集を手にとったことがないという方でもお勧めの一冊。

※90点〜 …… 芸術作品。もうすこしで国の宝だ!

※100点というのは芸術の世界ではめったにないと思うので、なかなかつけませんが、まれにこういうのもあるので、芸術の世界は侮りがたいのです。


ということで、高橋さんの写真集はひろくアイドル好きする男性に見てもらいたいものだと感じたわけですが、どうしても一般的なアイドルの写真集としては今一つブレイクスルーに欠けるという点で、70点代のなかでも低めの「73点」になってしまったのです。
ブレイクスルーに欠けると思った要因は、ハワイというシチュエーションに縛られすぎて、盛り込み方が半端になってしまったことにあると考えます。
スクールガール風ミニスカ&カーディガンで元気さを、ロコガール風衣装でポップさとキュートさを、ショートパンツスタイルのオーバーオールにセパレートの水着でエロかわいい路線を、それぞれ色々と模索していて、楽しかったのですが、やはりすべて「ハワイっぽい」と一言でまとめられてしまう弱さを感じました。


その点、去年の八月に発売された久住小春写真集『小春日記』は良かったと思います。

うん。85点で。


久住小春写真集『小春日記。』(DVD付)

久住小春写真集『小春日記。』(DVD付)


ロケ地の中心は高知県で、その土地がらをよく表したカットが多いにもかかわらず、そのシチュエーションに振り回されることもなく、うまく被写体の個性をロケーションに収めたと思います。また、ロケーションだけでなく、普段ならダレがちになるスタジオ撮影のカットも、抜群の個性を放っており、これは是非とも購入していない方は書店に走っていただきたいと思います。(笑)
久住さん自身は、かなりアクの強い被写体であるにもかかわらず、そのアクの強さをうまく利用して彼女の良さを120%引き出すことに成功した唐木貴央氏の力量は測り知れません。
いまのモーニング娘。には、こんな素晴らしい個性をもったメンバーがいるんだよというメッセージを込めて80点以上をつけました。


思えば、写真集というと、どうしても、そのアイドルのかわいさ(セクシーさ)を強調したものになりがちなことが多いですね。
いつぞや、この五稜郭で書きましたが、「アイドルが可愛い」なんて、それこそ「食えてうまければいい」とか「観ておもしろければいい」というような批評性に欠けるモノの見方だと思います。*2

そんななか、先日、相方・kamikunさんが百八軒にご持参くださった真野の写真集を観て、まー、心胆が凍結しましたね。

どこからどうみても「真野の着せ替えガイドブック」だと。それ以上でもそれ以下でもありません。

そりゃ、彼女は美人さんで、かわいいのはわかるけど、平成に入って20年。アイドルは「かわいいだけのアイドルなんて大量生産できるじゃないか」とおにゃん子クラブが登場して以降、完全に脱構築され、「アイドル冬の時代」を迎えてよりこのかた、「とにかく歌が上手いんです」「演技はアカデミー賞並みです」など、本格的なアーティスト路線やら、「鉄道好きなんです」「キャバ嬢やってました」「性欲強い人が好きです」などのキワモノ(?)路線やらなんやら、『かわいい+α』を模索することによって何とか芸能界にへばりついて来たわけなんですよ。*3
わたくしはそういう平成時代のアイドルファンでして、モーニング娘。の「+α」感は、それはそれは素晴らしかった。わたくしにとってはそれが辻さんと加護さんで、「かわいい」「かっこいい」「面白い」と三拍子だったわけで、その系統は、見事に今のモーニング娘。9人も、ちゃんとその通りだと、先日のライブで痛感しました。
そういう意味では真野は、まんま昭和アイドル。ガラスケースの中の考古文物。赤羽橋の橋本さんも一押しらしいし、真野本人も、自分の押され方を理解しているみたいだけど、やはり、ガラスケースの中の美術工芸品。たとえば、井戸の茶碗とか木彫の仏像のようなもの。 
そんなおくるみに包まれた昭和アイドルが、歌番組でもバラエティでも抜き身のダンビラとして己のありとあらゆるところを曝け出す平成アイドルにはかないません。*4


なので、真野の写真集についての評価は避けました。楽曲についても評価してません。


たしかに、昭和の栄光の一端をなした「歌謡アイドル」の衣鉢を正しく引き継いだ真野の存在は貴重だと思います。相方がしきりに「国の宝」と言っていたのは大仰でも、その気持ちはわかるんです。
しかし、これはガラスケースの中の茶碗だろうと。何かの衝撃でケースが割れたとき、木っ端微塵になってしまうかもしれない。これは心配。*5
「ただでさえ歌謡アイドルが芸能界で売りにくい世の中なのに、よく頑張るな〜〜〜」なんて、口から煙を吐きながら思ったり……。

てゆーか、平成のアイドル・モーニング娘。を発露とするハロプロの、末の末が昭和のアイドルとはこれいかに。


……。


…………いやはや。


真野のことを考えると、複雑な気持ちになるので、今回はこのあたりで。

*1:むろん関西焼きの、こういう「どやッ!」感も大好きです。

*2:そういう観るもの・聴くものを味わうことのできる力を備えた人が少なくなって、良質の音楽や写真集やらを作るように赤羽橋に牽制できなくなってきたことにも、モーニング娘。衰退の要因があるような気がします。

*3:「冬の時代」原因には、折しものバンドブームとニューミュージック全盛で、「歌う正統派アイドル」の居場所が激減したこともあると考えられる。参照

*4:実はつい最近まで男でしたとかいう、椿姫彩菜とか……。

*5:その衝撃とは推して知るべし……。……ああ。ということは、加護さんは自ら喉笛を掻き切ったことになりますな。(T_T)